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福岡高等裁判所 昭和47年(ネ)296号 判決

控訴人 福岡トヨペット株式会社

右代表者代表取締役 中山準治郎

右訴訟代理人弁護士 竹中一太郎

被控訴人 岩下ナル子

被控訴人 岩下辰雄

右両名訴訟代理人弁護士 斎藤哲人

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人は各被控訴人に対しそれぞれ金一〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年一〇月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分しその一を控訴人の、その一を被控訴人らの各負担とする。

この判決は被控訴人らにおいて、それぞれ金二〇、〇〇〇円の担保を供するときは、当該勝訴部分に限りかりに執行することができる。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

被控訴人の本訴請求に対する当裁判所の判断は左記のほかは原判決理由説示冒頭から一〇枚目表一〇行目末尾までと同一であるからこれを引用する。

一、原判決八枚目裏一〇行目「原告両名」以下九枚目表四行目「認されること、」までを削除する。

二、原判決一〇枚目表九行目「勝訴したこと」の次に「、しかし、本件連帯保証契約が成立したかどうかは根抵当権設定契約書と題する書面の中にある連帯保証条項(第一一条)につき被控訴人らの認識了承があったかどうかにかかるところ、右書面については特に第一面表題下には連帯保証人兼担保提供者の表示欄もあり、その内容を一読する程度の通常の注意をすれば当然にその内容趣旨を了解しえ、ひいては本件仮差押を回避しえたものと認められるにかかわらず、被控訴人岩下ナル子は田に対する抵当権設定手続のみを考えていたのでこの書面の内容を確めることなく、被控訴人らの印章を共立自動車有限会社の社員に手交して右書面の必要箇所に押捺させ、その結果控訴人をして被控訴人らの印鑑証明書付の右書面内容は被控訴人らの了承するところであると信じさせるに至ったもので、被控訴人ら側の過失は必ずしも軽微とはいえないこと」を加え、同一〇枚目一〇行目「右金額は相当」を「右金額中各原告につき金一〇〇、〇〇〇円は本件不法行為と相当因果関係に立つ損害」に改める。

三  ≪証拠省略≫によるも右訂正のうえ引用した原判決の認定事実をくつがえすに足らず、当審証拠中他にこれを左右すべきものはない。

四  控訴人は本件損害賠償の範囲を違法な仮差押自体より生ずる損害もしくは当該仮差押を排除するための仮差押異議手続までに要した費用に限るべきであると主張する。しかし、本件においては仮差押は被控訴人らの不動産、動産、給料等債権に対し次々に行われ、被控訴人らとしては、事案内容からみて疏明による立証活動が期待どおりの成果をあげうるか必ずしも逆しがたい状況にあり、しかも、本件仮差押は三件にわたりこれに対しいちいち異議の申立をしても被控訴人の右各手続に要する弁護士費用その他の出費は一件の本案訴訟におけるそれと大差なく、むしろ被保全権利の不存在をもって債権者からの仮差押を完全に排除するには既判力ある裁判を求めうる本案訴訟において勝訴することの方がより効果的であることなどを考慮すれば、被控訴人らが仮差担異議の申立をしないで直ちに本案訴訟にその解決を求めたとしても、それはそれなりに適切な方策であったというべく、そのために支出した弁護士費用が本件違法な仮差押の執行とは因果関係がないとは断じがたい。

五  すると、控訴人は各被控訴人に対しそれぞれ右金一〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四六年一〇月二八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるので、被控訴人らの本訴請求は右の限度において正当として認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

よって、右判断と異る原判決はこれを変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、第九六条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池畑祐治 裁判官 生田謙二 富田郁郎)

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